意志をもって学ぶ自分と出会う、そして確信をもって世界に立つ
今日の情報通信技術の進歩はとどまるところを知らず、私たちは、“ここ”に居ながらにして簡単に世界とつながることができ、世界中で今起きたことを“ここ”で知ることができるようになりました。その一方で、私たちは常に不安を抱えているように感じます。 価値観が極端に多様化し、果てしなく変化と忘却を繰り返す時代にあって、規範をどこに求めたらよいのか、あるいは、どのようにすればつながりを実感できるのか、いまひとつ確信を持てずにいるのではないでしょうか。強い言説に接してつい惹かれることがあっても、心底から安心することはないように思うのです。
本校は、創立以来一貫して「自主独立の気概」と「科学的精神」とを養うよう生徒諸君に説いてきました。これらの教えは、草創期においては、戦後の混乱が色濃く残る時代にあって貧しさを克服する方途として示されたものなのですが、その根本には、青少年に明るい夢を抱き続けてほしい、そして人類の福祉に貢献する人物として世界に羽ばたいてほしいとの切なる願いがあるのです。この願いは、右肩上がりの成長を信じていた時代を経て、グローバリズムへの一気の傾きを経験しても、変わることのないものでした。そして、現今の不安な時代においては、ますます強くなる願いなのです。
自らを取り巻く世界を自分の目や耳で冷静にとらえ、興味関心を高めてほしい・・・駒場東邦はその感受性を磨く場でありたいと思っています。
自分の頭で考えてそれを自分の言葉で表出してほしい、 そして考えることをやめないでほしい・・・駒場東邦はその思考力を鍛える場でありたいと思っています。
高い志をもつ仲間とともに、 失敗を恐れず、 自分の思い描くとおりに伸び伸びと学んでほしい・・・駒場東邦はその切磋琢磨の場でありたいと思っています。
思うに青春とは、決していつも明るい光に満ちたものではありません。むしろ、難問に突き当たり思い悩む日々は、鬱々としているものです。迷って、悩んで、なかなか前に進まなくてもいい、誠実に意志をもって学ぼうとするかぎり、それを助けようと思います。若い諸君が、互いの苦しみを理解しつつともに高い目標を目指していけば、そこにはアクティブな学習集団が実現していきます。そして、そのうちの一人として学ぶ者は、かけがえのない“ひとり”として世界に立つ日を、確信をもって迎えることができるものと信じています。
駒場東邦中学校・高等学校 校長 小 家 一 彦